中古品を通して現地人とコミュニケーション

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新しい土地で新生活を始めるとき、現地で知り合いを作るのは難しい。

渡米した日本人の俳優が、犬を飼ったら犬が他の犬と遊び始めるので、自然と犬の飼い主と話さなければいけなくなり、英語の会話力が上達した、ということを聞いたことがある。

ドイツでは犬があまりにもよく訓練されていて、他の犬と遊び始めてもすぐに遊びをやめて、飼い主同士も必ずしも会話をせず、自分の犬に「ほら、やめなさい、行くよ」と声を掛けるだけで終わってしまう光景もよく見かける。

そんな私が最近発見したのが、eBay Kleinanzeige。これはオークションサイトのeBayの姉妹サイトで、オークション機能はなく、日本で言うメルカリのようなものだけれど、家具などの中古品を取りに来れる近所の人だけに売ることができる。ここで中古品を売っていると、価格の交渉をしたり、ちょっとしたコミュニケーションをとるようになり、色んな人と会う機会ができた。

だからといって知り合いになるわけではない。

ただ、自分のテリトリーに物を受け取りに来た人がくるという状況なので、不思議なことに話しやすいということに気が付いた。最初のうちは、値段の交渉をすることすら不安だったけれど、意外に若くて無理な交渉をしてこない人達の方が多く、話し方もカジュアルでメッセージのやり取りも会ってからの会話もすぐに慣れてしまった。

同じような会話を繰り返しているうちに、繰り返すフレーズにアレンジしたり、物を取りに来た人のフレーズを次に来た人に使ったりしているうちに、さらにやり取りが楽しくなった。例えば「こんなに早く取引が成立してよかった(Ich freue mich, dass alles so schnell geklappt hat)」とか、日本語にはない表現で、商品をお楽しみくださいという意味でViel Spaß damitをよく使うようになった。

そんなある日、誰かがプリンターを買いたいということで、電話をしてきた。電話番号をいつも載せているけれど、近所に住む若い人たちが購入希望のメッセージを送ることが多いので、電話がいきなりくるのは仕事中だったこともありちょっとドキドキした。

電話にでてみると、やはり年のいった60代くらいのベルリンに住む男の人だった。「買いだめていたインクが、プリンターが壊れてしまったから捨てて無駄になるところだったけれど、そのインクが使えるプリンターが買えるというから、広告を見た時は本当にうれしくて・・・」ととにかく話好きだ。「は、はぁ、それはよかったです。あの、仕事中なのでちょっと後で連絡させてください」というように電話は終わった。

それからの取引はメールになったけれど、この人はセールスの人なのかとても書き方も話方同様に流暢で、プリンターの売り買いのやりとりなのに、ところどころに心がこもっていて、プリンターを見つけて本当に嬉しいというのが伝わった。

そしてプリンターが届いてからの最後のメールも、「パソコンにつないだらすぐに機能して、本当にすばらしい。すばらしいプリンターだ」のようなことが長く書かれていた。これに普段のように「よかったです。商品楽しんでください」というのは心もとない気がして、普段よりも頑張って心を込めてメッセージを送った。「このプリンターが大切にしてくれる新しい家を見つけてよかったです」というようなことを書いて送った。そしてコロナの中、身体に気をつけるようにということも書いてあったので、同じようなことを書いた。

送ってすぐ、こころが温かくなった。

こころの温かい人と接したということもあるけれど、どうやってドイツ語で心をこめてメッセージを送ることができるかと考えたときに、自分の中に人に対する親切心や感謝の気持ちを見つけることができ、それが十分に伝わるメッセージが書けたことで、内側のあたたかさを実感することができたということが大きい。

こうやって毎日生活していたら疲れてしまうと思う。それでもこうやって思いっきり心を開いて丁寧に心をこめるということができるのは心地よいことだ。お金のやりとりはエネルギーのやりとりだと言うけれど、こうやって物とお金の交換をすることで地元の人達とエネルギーを交換していく。犬であれ、中古品であれ、地元の人と交流する機会はそこら中にあるようだ。

ユカリ